基板でバッジやキーホルダーを作りたい! 「かわいい基板」を作る10の技
一般的には、電子基板といえば電子機器の筐体の中に入って、隠れているものだ。
でもMaker Faireなどのイベントに行くと、かっこいい基板の名札を付けている人や基板の名刺を配っている人、かわいい基板のアクセサリーを販売している人なんかも見かける。うらやましい……!
今回は、そんな「見せ基板」——かわいい基板を作るためのノウハウを語り合う座談会を開催した。
見せ基板作りは、独特の制約はあるけど、それを逆手に取った面白みもある、楽しい世界です!
僕も数カ月前に、初めてプリント基板を作った。もちろん見せ基板だ。
家で「KiCad」というソフトで設計して、基板製造会社にデータを送って発注。そうすると基板になって届く。
これは機能的にはArduinoで、プログラムを書き込むことでいろんなことに使える。でもそれは置いといて、ひとまずはかわいい見た目で作れたことに大満足だ。
1枚目としては満足のいく出来だけど、こういうものは突き詰めていくともっともっと深い道があるはずだ。入門者の1人として、かわいい基板の作り方がもっと知りたい! ということで、3人の有識者に集まってもらった。「かわいい基板座談会」の始まりである。
参加者プロフィール
よしだともふみ……電子工作アーティスト。オブシープ代表取締役。はんだ付けのワークショップなどを多数開催。かすやきょうこさんとのユニット、テクノ手芸部としてもかわいい基板グッズの制作経験が豊富。
矢島佳澄……乙女電芸部部長。techika代表。Yolni取締役。手芸×電子工作系ワークショップを多数開催し、専用基板もたくさん作製している。また慶應義塾大学で電子工作の授業も持っており、学生と一緒に基板を作っている。
ギャル電きょうこ……電子工作ギャルユニット。基板バッジやアクセサリーを、息をするように作りまくっている。フットワークが軽過ぎて、一緒にイベントなどで仕事をすると「じゃあ私、基板作りますよ!」ってすぐ言う。
集まった技は全部で10個。順に紹介していこう。
① シルクスクリーンのテクニックを参考にする(ギャル電)
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ギャル電
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私、シルクスクリーンでTシャツとかステッカーを作るときと同じテクニックで基板を作ってるんですよ。ネットとかでシルクスクリーンを作るときのテクをすげえ見てて。
「シルクスクリーンで作るときと同じ」について、ちょっと補足しよう。ギャル電の基板を見てみると
どれもバーンと派手で、自由にデザインされているように見える。でも実は基板のデザインって制約が大きい。中でも厳しい縛りが、色だ。
基板の表面は主にレジスト、パッド、シルクの3つで構成されている。例として「Arduino」を見てみよう。
一番面積の大きい青い部分がレジスト、文字やロゴが書いてある白い部分はシルク、そしてパッドは部品をはんだ付けする部分なのでほとんど隠れているが、左の方の矢印の先にかろうじて少し残っている。
一般的な基板製造ではこれらは1要素1色なので、見せ基板では3色を駆使してデザインを作っていくことになる。これって何かに似てませんか? そう、シルクスクリーンだ。
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石川
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例えばどんなテクニックがあるんですか?
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ギャル電
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濃淡のあるグラフィックはデータを網点処理すると表現できるとか、細い線を作りたいときはシルクで線を引くよりもシルクを抜いて下のレジストを見せた方が細くできるとか。
そういうテクを使ってると、めっちゃシルクスクリーンを感じます!
ちなみにシルクスクリーン印刷で起きがちな現象で、版ズレというものがある。色ごとの版の印刷位置がズレてしまう現象だ。そういう現象をあえて基板で再現してみるのも面白い。
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ギャル電
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ただ、基板独特の制限もあるんですよ。シルクはレジストの上にしか載せられないとか、部品がショートしないように設計しなきゃいけないとか。
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よしだ
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デザイン上、バッドが思いっきり露出しちゃってるからね。
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矢島
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電子回路としては、ほぼ片面しか使ってないですよね?
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石川
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両面基板のうち、「片面は見せるための面」って割り切っちゃってるんですね。
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ギャル電
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ちゃんと基板作ってる人から見たら「お前そんな配線するんじゃねえ!」って感じになってると思うよ(笑)。
② 雑誌「トランジスタ技術」のプリント基板特集号を買う(矢島)
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石川
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こういうのってデータはどうやって作るんですか?
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ギャル電
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私はデザインを「Adobe Illustrator」でやってSVG形式で書き出して、それを変換してKiCad(基板設計ツール)のライブラリの部品データに入れてるよ。変換には「Inkscape」(描画ソフト)と「Svg2Shenzhen」っていうプラグインを使ってるけど、これはInkscapeのちょっと古いバージョンにしか対応してないから、今なら「Gingerbread」を使うといいと思う。
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矢島
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KiCadもどんどんバージョンアップしてるから、今はIllustratorで描いてDXF形式で書き出せば、直接KiCadのいろんなレイヤーにインポートできますよ。昔はできなかったけど。
2つのやり方が登場した。ギャル電方式だとIllustratorで書いた3色ぶんのレイヤーと外形(輪郭)を一気にKiCadの部品データに変換できる、矢島さん方式だと1つずつ個別にKiCadに取り込める、という違いがある。
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矢島
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私はKiCadユーザーですけど、KiCadって年に1回以上のペースでメジャーバージョンアップがあるんですよ。どんどん便利な機能が増えていくから、ちゃんと最新にしておきたいなと思って。年に1回くらい「トラ技」でプリント基板特集があるので、それを毎回買ってます。
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よしだ
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4月とかにね(※年によります)。
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矢島
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基本的な使い方だけじゃなくて、最新機能も書いてくれてるから。あとDVDも付いてて、私はあれでKiCadを覚えたんです。今も学生と動画を見て「こうやってやろう」みたいな感じで使い方を教えています。
「トランジスタ技術」のサイトを確認したところ、ちょうど2025年1月10日発売号に「小型革命!はじめてのプリント基板設計」という特集があるようだ。これから始めようという方は読んでみよう。
③ 透け感を生かす(ギャル電/よしだ)
再び色の話。
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ギャル電
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この基板は、基材の色を生かしたやつ。
さっき、「基板の表面は主にレジスト、パッド、シルクの3つで構成されている」と書いた。実は使おうと思えばもう1色ある。それが、基板の基材をそのまま見せるやり方だ。
上の写真で緑っぽく見えているのが、基材をそのまま残した部分。樹脂に少し透過性があるので、裏面のデザインが透けて独特の質感になっている。
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ギャル電
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これで1色増えるし、ちょっと透けるのがカッコイイでしょ?
次の、よしださんが持ってきてくれた基板も、うまく透け感を生かしてかわいく仕上げている。
ただしこちらは基材そのままではなく、レジストの色。やり方は異なるけれども、透明感を生かすという発想は工夫次第でいろいろ生かせそうだと感じる。
④ 直線ツールで文字を書く(よしだ)
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よしだ
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これは、はんだ付けを練習するための基板なんですけど、文字を「EAGLE」(KiCadと同じ基板設計ツール)の直線ツールで書いてます。
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石川
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かわいい~。
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よしだ
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EAGLEって日本語が打てないんですよ。だからマウスで書いてます。ちょっと五味太郎さん(の絵本の文字)みたいでいいでしょ?
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ギャル電
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「抵抗」の漢字とか、めちゃめちゃ大変そう!
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石川
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「がんばって!!」の「て」の曲線の感じとかすごいよ。
⑤ 高い素材を使う(ギャル電)
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ギャル電
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素材でいうと、金とピンクはクソ高いんですよ。
パッドは金と銀が選べるのだけど、金メッキと銀メッキでは結構印象が変わる。
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矢島
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金フラッシュですね!
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よしだ
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略して金フラとか言うんだけど、錆びにくいから本来はテストポイント※なんかに使うんです。その分高い。
※はんだ付けで部品を固定しないで、端子を着け外ししながら使うためのパッド。
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ギャル電
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金フラは高い。注文するとき「えっ、こんな値段!?」って思うときあるもん。
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よしだ
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これはFAROというカフェと一緒に作った基板バッジです。カフェだったら温かみがある金色かなって思って金にしました。灯台のデザインにも合うし。
レジストの色にも高級なものがある。
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ギャル電
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ピンクは特色だから高いよ。でも使う。たしかキャンペーンで、その時期にしかやってない色だったはず。
基板屋さんのX(旧Twitter)をめっちゃフォローしてるんですけど、たまに「次のキャンペーンはどの色がいいと思いますか?」って投票企画があったりして、私、めっちゃ票入れてる(笑)。
⑥ いろんな素材を試してみる(よしだ)
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よしだ
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基板屋さんのメニューを見ると、だんだんできることが増えてきてるんですよ。ピンク色の基板が作れるようになったのもそうだし、すごく薄い基板が作れるようになったりも。これは別にかわいい基板ではないんですけど……
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石川
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フレキってやつですか?
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よしだ
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そうなんだけど、金フラ(の厚さ)が0.025mmなんです。最近カメラを修理してて作ったんだけど、普通のフレキの4分の1の厚さなの。
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矢島
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P-Flexっていう、すごくかわいい色が出せるフレキの技術もあるんですよ。それもやってみたいなと思ってました。
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よしだ
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フレキじゃない普通の基板でも、厚みを変えるだけで印象が変わるんですよ。
標準は1.6mmなんですけど、さっきの灯台のバッジは0.9mmです。
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ギャル電
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ちょっと見え方が違うね。
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石川
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手に取った印象も違うな。薄い方がおしゃれな気がする!
⑦ SnapMagic Searchを使う(矢島)
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矢島
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私は今「Yolni」っていう製品を作っていて、そのプロトタイプで基板をたくさん作ったんですけど
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石川
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めちゃめちゃ形が変わってますね。
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矢島
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勾玉型とか、香水ビン型とか、いろいろ変遷があって。
それで、今基板ってすごく安く作れるので、すごく気軽に作ってます。ちゃんとした試作品だけじゃなくて、何も部品を載せないで穴の位置のチェックだけしたいとか、電池ケースのサイズを変えたいから基板出し直して部品実装しないで確かめるとか。
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石川
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えー。すごい、そんな気軽に。
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矢島
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そのくらい気楽に作るといいよっていうのはまず伝えたいですね。それから基板作りがすごく楽になるサービスがあって、「SnapMagic Search(旧SnapEDA)」って使ってますか?
Webサイトなんですけど、部品を検索すると、3Dモデルとかフットプリントとか全部ダウンロードしてKiCadに入れられるんです(※要会員登録)。
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石川
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えっ、そうなんだ!
僕が基板作ったときも、部品を選んでもフットプリントがなくて困ってました。これは便利。
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ギャル電
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3Dで確認するの大事ですよね。シルクの作り方間違えて、白と黒が反転しちゃったりとかよくあるので。
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矢島
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回路を作るときの、狭い場所で部品同士がぶつからないかな……、みたいな心配も確かめられます。
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ギャル電
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KiCadでも確認するけど、デザインに関しては基板屋さんで注文するときのWebプレビューの方がより精度高く見えるから、そこで再確認するのも大事!
⑧ 担当者と仲良くなる(矢島)
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矢島
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基板屋さんごとに得意分野があるんです。このエイはJLCPCBで作ったんですけど、ここやばくないですか?(笑)
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矢島
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こういう複雑な形はJLCPCBが作ってくれる。
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石川
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PCBGOGOはフルカラー基板を扱ってますよね。
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よしだ
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さっきの薄いフレキはPCBWayでしかできなかったはず。
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矢島
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私がよく使うのはElecrowで、もう担当者と仲良くなったから、相談するといろんなことやってくれるんです。キット作るのに部品を袋詰めしてくれたりとか。
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石川
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ワークショップやる勢にはたまらないサービスだ!
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矢島
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あと、手でやらないとできないはんだ付けも、交渉次第で。モーターにジャンパーピンを付けて、3本のうちの真ん中だけ抜いてくれとか。
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よしだ
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行きつけの店じゃない、それ。
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矢島
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「最近調子どう?」みたいな感じでやってます。
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石川
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基板屋さんに常連の概念あるんだ(笑)。
⑨ 異素材と組み合わせる(よしだ)
次は、基板自体というより後加工の話。
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よしだ
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これもテクノ手芸部で作ったやつで、ダフト・パンクっぽい猫。
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ギャル電
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あっ、めちゃめちゃ可愛い! 表面はアクリルですか?
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よしだ
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それはステンレスをレーザーカッターで切ってもらって、間に木が挟まってますね。
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石川
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これ、めちゃめちゃ製品感ありますね。
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よしだ
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昔、IAMAS(情報科学芸術大学院大学)の小林茂先生が“木と金属とか異素材を組み合わせると、ファブ技術としては同じなんだけど、いきなり売り物っぽくなる”という話をされてたんです。
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石川
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電気製品っぽくない素材と組み合わせるといいのかな。
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ギャル電
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すごい大事ですね、これ。
⑩ バッジギーク界隈をチェック(ギャル電)
最後に、情報源の話。
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ギャル電
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バッジギークっていう、DEFCONとか海外のハッカーイベントなんかで、名札の代わりに基板で作ったバッジを付ける界隈があるんですよ。
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ギャル電
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作り始めの頃は日本にこういう基板の情報がなかったんで、よく海外の情報を調べてました。
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よしだ
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昔はせっかくデザインした基板を注文しても、勝手に色を変えられたりしたんだよね。動くからいいでしょ? って感じで。
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ギャル電
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あったね! このデータはおかしいって断られたり。でも、そのバッジギークがよく頼んでる中国の基板屋さんを探して注文すると、何も言わずにやってくれたりとか。
最近はどの基板屋さんもデザインに凝った基板を理解してくれるようになったけど、バッジギークが注文しまくって道を切り開いたところも大きいと思う。日本語の情報で物足りないなって思ったら、そういう界隈の情報も参考にするといいんじゃないかな。
海外のバッジギークの情報はInstagramなどから「#badgelife #pcbart」「#badgelife #defcon」などのキーワードで検索すると、よく見つかるそうだ。
まとめ
というわけで、3時間近くに及んで盛り上がった座談会より、かわいい基板を作るためのノウハウ/アイデアをギュッと凝縮してまとめた。
個人的に思うのは、基板作りって意外に初心者でも楽しめる趣味だということ。
初心者視点だと「プリント基板って電子工作に詳しい人がやるんでしょ?」と思いがちだけど、実はLEDを光らせる技術さえあれば、それを基板化して光るバッジは作れる。
もちろん設計ツールの使い方を覚える気合いは必要なのだけど、少なくともゴリゴリに回路設計に詳しい必要はないのだ。