誕生から50年! タミヤの「楽しい工作シリーズ」年間ベスト10を聞いてみた
1971年の誕生から50年以上にわたって、模型を作る楽しさを老若男女に伝えてきたタミヤの「楽しい工作シリーズ」。動物や乗り物、かゆいところに手が届くパーツ類をそろえ、子どもからホビーイスト、Makerに至るまで幅広いファンに支持されています。
そんな楽しい工作シリーズの年間ベストセラー商品を、タミヤ 営業企画課で楽しい工作シリーズに携わる石崎隆行さんに伺いました。これさえ見れば冬休みの自由工作ネタが見つかるかも?(聞き手:石川大樹、越智岳人)
越智:今回は2024年5月にリニューアルオープンした、東京都港区の新橋にある「TAMIYA PLAMODEL FACTORY TOKYO」の売上データをもとに、年間ベスト10を伺います。では、まず10位からお願いします!
10位:プラバンセット 462円
石崎さん:楽しい工作シリーズの品番は70001からスタートしているのですが、このプラバンセットは70003——つまり、50年以上前からあるロングセラー商品なんです。プラモデルと同じ材料のスチロール樹脂を使っているので、塗装もできるし接着剤も使えてカッターでも切りやすいのが特徴です。
こうした素材系のセットはまとめ買いをされるお客様も多いので、毎年売れ続けています。この他にも中が空洞になっている角パイプやL字型など、さまざまな工作用の材料も扱っています。
9位:水上バイク工作セット 2090円
石崎さん:楽しい工作シリーズでは、水中で遊べる製品を毎夏リリースしています。この製品の画期的な点は水中モーターの使い方ですね。遠心ポンプで水を勢いよく噴出して前進する機構を採用してます。この仕組みを使ったモーターは、水上バイクが初です。
毎年、水中で遊べるシリーズを企画していますが、マンネリにならないようそれぞれに何かしらの工夫を凝らしています。水中で動くものを工作したいときにもお薦めしたいキットです。
8位:3チャンネルリモコン フォークリフト工作セット 4180円
石崎さん:フォークの上下動に加えて、前後進や左右への旋回も操作できる工作キットです。実は一度リニューアルしていて、かつては車体とシート部には木材を使っていました。
昔、楽しい工作シリーズで遊んでいた大人が再び手に取ったり、お子さんのために買っていたりするのかもしれませんね。製品自体もモーターが3つあるので組み立て甲斐がある上に、他の製品ではあまり採用されていない金属パーツにグッと来る方も多いようです。
7位:歩いて泳ぐアヒル工作セット (イエロー) 2200円
石崎さん:2024年に出た新製品です。2023年に出した白のアヒル工作セットが大ヒットしたので、2024年の新色としてリリースしました。さまざまなイベントで展示/販売をしていますが、楽しい工作シリーズのファンだけでなくお子さまや女性からの反応もいいですね。
6位:ユニバーサルアームセット (オレンジ)462円
石川:ここに来てゴリゴリのパーツがランクインしましたね。リンク機構みたいなものをパパッと作ろうと思ったら、これしかないんですよね。リンク機構をスムーズに動かせるジョイントパーツも用意されているのがアツいですね。
石崎さん:これは工作界隈では定番中の定番ですね。楽しい工作シリーズのパーツは穴を5mm間隔に統一しているので、他の製品と組み合わせた工作も可能です。グレーのユニバーサルアームセットも販売していて、タミヤ全体でもグレーのほうが売れているのですが、新橋ではオレンジが人気なんです。
というのも、新橋の店頭で配布している小冊子の中でオレンジのユニバーサルアームセットを使った作例を紹介しているんですね。なので、新橋のお客さんには「ユニバーサルアームセット=オレンジ」という印象があるのかもしれません。
石川:過去に似たようなパーツをホームセンターで探したことがあったのですが、意外と無いんですよね。工作をやる人にとっては買い置き必須アイテムだと思います。
5位:モノレール工作セット 2640円
石崎さん:オプションとして延長用のレールパーツセットも扱っていますが、6位で紹介したユニバーサルアームセットがレールとしても使えるのがポイントですね。
石川:レールの端で切り替えレバーが自動で切り替わり、進行方向が逆になる機構も地味にすごいですよね。
石崎さん:車体は紙製で、自由に色を塗ったり絵を描いたりできるようにしています。売られている商品を組み立てるだけでなくて、自分でひと手間かけられる余地がある商品があってもいいよねという話が企画段階で上がって、カスタムしやすい紙を採用しました。ちなみに「跨座(こざ)式」とぶら下がりの「懸垂式」は選択できます。
4位:泳ぐラッコ工作セット 2178円
石川:機構が全て見えるのもいいですね。子どもの教材としても優れてますね。
石崎さん:ラッコのように機構が見えるのが工作の醍醐味(だいごみ)でもある一方で、先に紹介したアヒルは機構が見えないようにしていて、動物としてのリアリティを追求しています。両極端にある製品がそれぞれランクインしているのも面白いですね。
3位:四輪クローラー工作セット 2640円
石川:PVもめちゃくちゃ凝ってますね! タミヤだけあって背景に富士山が見えるのもいいですね。動画は社内で制作してるんですか?
石崎さん:社内に動画制作担当がいますね。社内に操縦のプロもいますし、解説文を書く際も社内に設計者がいるので、みんなでそろって撮影に出かけたほうが手っ取り早いんですよね(笑)。本社のある静岡県は山と海へのアクセスもいいので、撮影もほぼ県内ですね。
石川:これまで紹介された全商品が欲しくなる上に、静岡に移住したくなるインタビューですね……(笑)。
2位:歩いて泳ぐアヒル工作セット 2200円
越智:7位に同じアヒルのイエローがランクインしていますが、白のほうが人気なんですね。
石崎さん:白のアヒルは2023年に販売開始しています。水に浮くよう、通常のプラモデルに使うスチロール樹脂よりも軽い素材を採用した結果、塗料が乗らなくなったんですね。それでカラバリとして黄色を出したという経緯があります。
それまで出していた水中で遊べる工作キットは、完成したときに水場を用意しないと遊べないという弱点がありました。開発者との会議で「完成したらすぐに遊べて、水中でも遊べるキットがほしい」という話になったんです。
その当時、楽しい工作シリーズでは「水陸両用車工作セット」は1つしか無かったので、商品としても伸びしろがあるんじゃないかという話になり、アヒルで商品化することになりました。
石川:水中を泳ぐパーツと陸上を歩くパーツが共通なんですね。
石崎さん:足回りは非常に苦労しましたね。さまざまな仕様を議論した結果、「水辺に向かって歩きながら進み、シームレスに水場でも泳げるのが大事なんじゃないか」という話になりました。その結果、ペタペタ歩いているように見えて、水の中に入ると変形しないで泳げる機構に落ち着きました。
石川:この機構もいいですよね。単にギアで伝えるのではなく、クランクプレートを使い回転運動を往復に変換する仕組みがユニークだなと思いました。他のキットには無い機構ですよね。首が動くのも含めて、動きが細かい!
石崎さん:実は開発当初は鴨を作ろうという話になっていて、実際に鴨の観察もしました。鳥はよく見ると、首の動きに特徴があるんですよね。これは工作シリーズでも再現しようと開発者がこだわった点でもあります。
1位:歩いて泳ぐペンギン工作セット 2420円
越智:そして第1位はペンギン。動物シリーズが強いんですね!
石崎さん:アヒルの人気を受けて、水陸両用モデルの動物第2弾として2024年に発表した新製品です。第2弾ではあるものの、アヒルとそっくりにならないよう随所に工夫をこらしています。陸から水に入る際のシームレスな動きにもこだわりました。
実は開発者がギリギリまで二足歩行にこだわっていたのですが、実現が困難でした。そこで両足の内側に目立たないように車輪を設置することで、歩いているように見えつつ歩行の安定性も担保しています。
越智:この商品も本物のペンギンを観察しながら設計したんですか?
石崎さん:YouTubeでペンギンの動きをずーっと観察したり、会社の近くにある日本平動物園まで行ったりしていましたね(笑)。
石川:ペンギンやアヒルのような商品を出す際、どれぐらいの開発期間がかかるんですか?
石崎さん:基本の設計自体はおおむね3カ月くらいですけど、工作は動きのアイデアや方向性を捻り出すのに半年以上かかることもあります。量産化のギリギリまで、細かい修正を重ねるなど開発担当がこだわっていますから。
番外編:トップ10には入らなかったけど、イチオシの商品
越智:ここでトップ10には入らなかったけど、石崎さんお薦めの商品があれば教えてください。
石崎さん:「重心移動歩行ロボット工作セット」(2200円)ですね。通好みの商品で、それこそMaker Faireに出すと、「この二足歩行はありそうで無かった!」とエンジニアのおじさんたちが集まって褒めてくれるんですよね。
石川:腕や脚にはメカ的な機構は入ってないんですね。
石崎さん:はい。電池とモーターがある胴体部の重さを左右に振ることで動いています。この機構は江戸時代のからくり人形にも使われているものなんです。開発担当が1位のペンギンも担当していて、学生時代から二足歩行ロボットに情熱を注いできたと聞いています。
取材協力:TAMIYA PLAMODEL FACTORY TOKYO
※価格は記事初出時の税込価格です。