さよなら蛍光灯——切れかけの街灯風照明をLEDで作る
気が付けば、照明の主流が蛍光灯からLEDに変わっていた。しかも蛍光灯は、環境問題の観点から2027年末に製造や輸出入が禁止となることが世界的に決まっており、今後どんどん街から消えていく運命にある。
蛍光灯で育った世代としては、あの蛍光灯特有の「味わい」は忘れないでおきたい。チラつきが生み出すぼんやりとした温かみだったり、カチカチと音を立て点灯に時間がかかる挙動だったりと、LEDにはない数々の魅力に満ちている。
特に好きなのは、切れかけた蛍光灯が見せる、まるで虫の息のようなチカチカとした点滅だ。このはかなくも美しい光景を後世に残したいという思いから、切れかけの蛍光灯を再現したデスクライトを作ってみた。
切れかけの蛍光灯が放つ命の輝き
蛍光灯が切れそうになると、チカッ! チカッ!という不規則な点滅を始める。光り方は徐々に不安定になり、急に明るくなったかと思えば、次の瞬間には暗くなる……。まるで命の終わりを見ているようで、何とも言えない感傷的な気分にさせられる。
さて、今だとこの文章だけで、大半の人が点滅の様子を想像できると思う。しかしLED化が進んでいくと、将来的にはこの話も通じなくなってくるだろう。人類は蛍光灯が放つ最後の輝きを忘れてしまうのだ。
あのどこか生命を感じる挙動を後世に残していきたい。そうだ、LEDで切れかけの蛍光灯の光り方を再現できれば、蛍光灯がなくなった未来でもあの雰囲気を味わえるのではないだろうか。
そんなわけで、こんなものを作ってみた。
街灯をイメージしたデスクライトになっており、電源を入れると独特な光り方をする。どういうライトなのか、順に紹介していきたい。
切れかけの街灯を再現したデスクライト
このLEDは「NeoPixel」と呼ばれるマイコン内蔵のもので、1本の信号線だけで各LEDの色を個別に制御できる便利なデバイスである。今回は22個のLEDをうまいこと光らせることで(光らせ方は後述)、切れかけの蛍光灯の微妙な光り加減を再現してみた。
あの蛍光灯の不規則な点滅が、デスクライトで味わえるのだ。
切れかけの蛍光灯って、端の方が赤っぽくなっていたのを覚えているだろうか。それをLEDで再現している。あの消え入りそうな蛍光灯の味わいを気軽に堪能することができる。
とはいえ、「デスクライトがこんなに点滅していたら使い物にならないじゃないか!」と思うかもしれない。でも大丈夫、それを見越して点灯モードを4つ用意した。赤いスイッチを押すごとにモードが切り替わるようになっている。
切れ加減を変えられる4つのモード
(1)少しだけ切れかけモード
このように、普段使いしやすいモードを用意してみた。全くチカチカしないとなると、このデスクライトのアイデンティティが失われてしまうので、少しの点滅は我慢してほしい。
ちなみにこのモードでは、
「点灯時間:2~4秒 → 消灯時間:0.1秒~0.3秒」(秒数は範囲内でランダムに決定)
という設定にしており、点灯と消灯の頻度を乱数で揺らすことで、ずっと見ていても不自然にならない光り方を実現している。
(2)ほどほどに切れかけモード
先ほどよりも少し「切れかけ感」を増したのがこのモード。
設定としては、
「点灯時間:0.4~1.2秒 → 消灯時間:0.8秒~1.5秒」
にしている。(1)のモードでは点灯時間の方が長かったが、これ以降は消灯時間の方が長くなっており、点灯が持続しなくなっている様子を表現してみた。
(3)だいぶ切れかけモード
ここまで細かくモードを分ける必要があったのかよく分からないが、先ほどよりもさらに切れそうになったのがこのモード。
「点灯時間:0.1~0.4秒 → 消灯時間:1.2秒~2.5秒」
という設定であり、点灯時間がかなり短くなっている。最後の力を振り絞って光り続けようとする蛍光灯の生命力を強く感じる仕上がりだ。
(4)最後の輝きモード
そして最後は、力尽きようとする寸前の光。
設定は
「点灯時間:0.01~0.2秒 → 消灯時間:2.0秒~3.5秒」
で、点灯は本当に一瞬だけチカッとする程度である。
想像してほしい——夜道を歩いていると、遠くに切れかけた街灯がチカチカとまばたき始める。擬音で言うと、「ジー……ティッカッ、ティッカ……」というような微かな音が耳に響く。今はもうほとんど味わえないあの風景、時代と共に変わりゆく風景。夜の静けさと共に脳裏に浮かんでくるそれは、どこか郷愁を感じさせる光だった。
点滅する光を見ていると、過去の記憶が呼び覚まされてくる。眠れない夜に、部屋を暗くしてボーッと眺めていたくなるような、そんなデスクライトが完成した。
チカチカをLEDで再現する方法
光源には、先に紹介した通りNeoPixelを使っている。点灯パターンの制御には、Arduino互換機の「Pro Micro」を使用。電源はモバイルバッテリーから取るという、これだけのシンプルな構成だ。
意外と透明度が高くて、カバー越しに中のLEDが透けて見える。この状態で点灯させてみよう。
こういう場合は、指向性の強いLEDの光を拡散させる必要がある。過去にいろいろ試したノウハウがあったので、半紙を使えば解決するだろうと思って試してみる。
見た目にはうまく光るようになったので、あとは点灯と消灯をタイミングよく繰り返すだけだ。しかし、ただ点滅を繰り返すだけの動作だと何かが違う……。光り方に機械的な印象を受けてしまい、あの蛍光灯特有のふんわりとした感じが全く出ないのだ。
点灯! 消灯! という0と1みたいな切り替えではなく、もっとグラデーションを持った切り替えにしないといけない。いろいろと試行錯誤した結果、最終的に編み出したのがこの光り方であった。
わずかな調整ではあるが、このじわっとした明度の変化を加えることで、点灯→消灯時に「ふわっ」とした印象が生まれた。変化時間もわずか数百ミリ秒なので、目で見て違いに気付くというよりは、何か印象が変わったなと思う程度である。でも、これがあるのとないのとでは大違いなのだ。
この点灯は2ミリ秒間隔で行うため、時間にしたらほんの一瞬である。でも本当に、これがあるのとないのとでは大違いなのだ。
ちなみに本物の蛍光灯も、よく見ると両端から内側に向かって点灯している。一瞬の出来事なので気に留めることはほとんどないものの、実際にこれが見慣れた蛍光灯の光り方なので、見ていて安心する感覚がある。
以上のような光らせ方の工夫をすることで、より自然に見える切れかけの蛍光灯を表現することができた。神は細部に宿るのである。
街灯を模した外見について
ここまで照明部分の紹介をしてきたが、このデスクライトは外見にもこだわりがある。ただのデスクライトではなく、できるだけ街灯に寄せた見た目に作り込んでいる。
夜に輝け、切れかけの街灯
せっかくの街灯なので、リアルな環境で使ってみよう。夜の街に持ち出してみた。
蛍光灯に似せたLEDの光が、夜の静けさに溶け込む。ちなみにこんな見た目だが、LEDなので虫は寄ってこない。
切れかけの街灯から放たれる揺らめきは、街を照らすだけでなく、私たちの心の奥底にある記憶もそっと照らし出している。街からすっかり蛍光灯が消えてしまった後も、このデスクライトを見れば当時の記憶が呼び覚まされるだろう。
机を明るく照らすには不向きだけど、感傷に浸りたいとき、気持ちを落ち着かせたいときに、この切れかけの街灯の光を浴びるといい。そういう用途のデスクライトがあってもいいと強く思ったのであった。